大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 平成9年(行ウ)2号 判決 1999年2月09日

原告

高橋敬幸

被告

鳥取県知事

西尾邑次

右訴訟代理人弁護士

藤原和男

寺垣琢生

右指定代理人

池上勝治

外一三名

主文

一  被告が原告に対して平成九年五月一日付けでなした別紙文書目録記載一及び二の各文書のうち、別紙非開示情報目録記載の部分を開示しないとする処分を取り消す。

二  被告が原告に対して平成九年六月二日付けでなした別紙文書目録記載三ないし九及び一二の各文書のうち、別紙非開示情報目録記載の部分を開示しないとする処分を取り消す。

三  被告が原告に対して平成九年五月一日付けでなした別紙文書目録記載一三の各文書を開示しないとする処分を取り消す。

四  被告が原告に対して平成九年五月一四日付けでなした別紙文書目録記載一四及び一五の各文書を開示しないとする処分を取り消す。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文第一ないし第四項同旨

(なお、原告は、別紙文書目録記載一〇及び一一の各文書のうち、別紙非開示情報目録記載の部分を開示しないとする処分の取消しを求める訴えを取り下げた。)

第二  事案の概要

本件は、原告が、鳥取県公文書公開条例(以下「本件条例」という。)に基づいて文書の開示請求をしたところ、被告が、右開示請求に係る文書のうち、別紙文書目録記載一ないし九及び一二の各文書(以下「本件文書一」という。)については、本件条例において定められている非開示事由に該当する情報が記載されているとして右記載部分を開示しないこととし、また、別紙文書目録記載一三ないし一五の各文書(以下「本件文書二」という。)については、本件条例において開示の対象となる公文書にあたらないとして右開示請求に係る請求書を返戻したことに対して、本件文書一のうち開示しないとされた情報については、いずれも本件条例で開示しないことができると規定されている情報に該当しないとして、右記載部分を開示しないとする処分の取消しを求め、また、本件文書二に対する開示請求書を返戻したのは、本件文書二を開示しないとする処分であるとした上で、本件文書二はいずれも本件条例において開示の対象として規定されている公文書であるとして、右処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等により構成される前提事実(証拠により認定した事実を含むものについては、その認定に用いた証拠を適宜記載した。)

1  本件条例(一部省略)の内容(当裁判所に顕著)

第一条(目的)

この条例は、公文書の開示を求める権利を県民に保障するとともに、公文書の開示等に関し必要な事項を定めることにより、県政に対する県民の理解と協力を深め、県民と県との信頼関係の確立に寄与し、もって県民参加による開かれた公正な県政の推進に資することを目的とする。

第二条(定義)

1 この条例において「実施機関」とは、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会及び病院事業の管理者をいう。

2  この条例において「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)であって、決裁、供覧等の手続が終了し、実施機関が管理しているものをいう。

3  この条例において「公文書の開示」とは、実施機関が公文書を閲覧に供し、又は公文書の写しを交付することをいう。

第三条(解釈及び運用の方針)

1 実施機関は、県民の公文書の開示を求める権利が十分に保障されるように、この条例を解釈し、運用するものとする。

2 実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人の秘密その他の通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

第五条(公文書の開示を請求できるもの)

次に掲げるものは、実施機関に対して、公文書の開示を請求することができる。

一  県の区域内に住所を有する者

二  県の区域内に事務所又は事業所を有する法人その他の団体

第六条(開示請求の方法)

公文書の開示の請求(以下「開示請求」という。)をしようとするものは、実施機関に対して、次に掲げる事項を記載した請求書を提出しなければならない。

一  氏名又は名称及び住所又は事務所若しくは事業所の所在地並びに法人その他の団体にあってはその代表者の氏名

二  開示請求に係る公文書を特定するために必要な事項

三  その他実施機関の定める事項

第七条(公文書の開示の決定等)

1  実施機関は、前条に規定する請求書を受理したときは、当該請求書を受理した日から起算して一五日以内に、開示請求に係る公文書の開示をするかどうかの決定をしなければならない。

2  実施機関は、やむを得ない理由により、前項に規定する期間内に同項の決定をすることができないときは、前条に規定する請求書を受理した日から起算して四五日を限度として、その期間を延長することができる。この場合において、実施機関は、速やかに、前条に規定する請求書を提出したもの(以下「請求者」という。)に対して、延長する理由及び期間を書面により通知しなければならない。

3  実施機関は、第一項の決定をしたときは、速やかに、請求者に対して、当該決定の内容を書面により通知しなければならない。この場合において、公文書の開示をしない旨の決定(第一〇条の規定に基づき、開示請求に係る公文書の一部を開示しないこととする場合の当該開示しない旨の決定を含む。)をしたときは、当該決定の理由及び当該決定の理由がなくなる期日をあらかじめ明示することができる場合にあっては、当該期日を付記しなければならない。

4  実施機関は、第一項の決定をする場合において、当該決定に係る公文書に県以外のものに関する情報が記録されているときは、あらかじめ当該県以外のものの意見を聴くことができる。

第九条(開示しないことができる公文書)

実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の開示をしないことができる。

二  個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ  法令等の規定により、何人でも閲覧することができるとされている情報

ロ  実施機関が公表することを目的として作成し、又は取得した情報

ハ  法令等の規定による許可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

三  法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示することにより、当該法人その他の団体又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ  事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体及び健康を保護するために、開示することが必要であると認められる情報

ロ  違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある支障から人の生活を保護するために、開示することが必要であると認められる情報

ハ  事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある侵害から消費生活その他県民の生活を保護するために、開示することが必要であると認められる情報その他開示することが公益上必要であると認められる情報

七 県又は国等が行う監査、検査、取締り、許可、認可、徴税、渉外争訟、交渉、入札、試験、人事その他の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の実施の目的が損なわれるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係が損なわれるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

第一〇条(公文書の部分開示)

実施機関は、開示請求に係る公文書に前条各号のいずれかに該当する情報(以下「非開示情報」という。)とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において、非開示情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離でき、かつ、当該開示請求の趣旨を損なわないと認めるときは、当該非開示情報に係る部分を除いて、当該公文書の開示をしなければならない。

2 本件訴訟に至る経緯(甲一、二、三の1ないし9、四の1ないし6、五の1ないし5、六の1ないし10、七の1ないし5、八の1、2、九ないし一二)

(一) 原告は、平成九年四月一〇日、被告に対し、本件条例五条一号に基づき、別紙文書目録記載一及び二の各文書について開示請求を行った。

これに対して、被告は、平成九年五月一日付けで、会議、懇談会等(以下「会議等」という。)の出席者(鳥取県職員を除く。以下同じ。)の所属団体名、職名及び氏名については本件条例九条二号及び同条七号に該当することを理由として、また、会場となった飲食店等の取引金融機関名、口座番号及び印影については本件条例九条三号に該当することを理由として、それぞれの部分について一部を開示しないとする旨の処分を行った。

(二) 原告は、平成九年四月一〇日、被告に対し、本件条例五条一号に基づき、別紙文書目録記載三ないし九及び一二の各文書について開示請求を行った。

これに対して、被告は、平成九年五月一日付けで、本件条例七条に基づき決定期間延長の通知をした後、同年六月二日付けで、会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名については本件条例九条二号及び同条七号に該当することを理由として、また、会場となった飲食店等の取引金融機関名、口座番号及び印影については本件条例九条三号に該当することを理由として、それぞれの部分について一部を開示しないとする旨の処分(前期(一)の処分と併せて、以下「本件処分一」という。)を行った。

(三) 原告は、平成九年四月二五日付けで、本件条例五条一号に基づき、別紙文書目録記載一三の各文書について開示請求を行った。

これに対して、被告は、平成九年五月一日付けで、公文書が存在しないから右開示請求に係る請求書を受理することができないとして、右請求書を原告に返戻した。

(四) 原告は、平成九年五月八日付けで、本件条例五条一号に基づき、別紙文書目録記載一四及び一五の各文書について開示請求を行った。

これに対して、被告は、平成九年五月一四日付けで、公文書が存在しないから右開示請求に係る請求書を受理することができないとして、右請求書を原告に対して返戻した。

(五) 原告は、右(一)ないし(四)の被告の対応を不服として、平成九年七月三〇日付けで、本訴を提起した。

3 なお、原告は、右2(一)ないし(四)の開示請求の際に、知事部局の「県外出張に関する書類(旅行命令簿、支出負担行為兼支出仕訳書(旅費請求書、旅費精算請求書を含む。)、復命書、会議等で受領した資料)」、並びに、鳥取県議会議員・議会事務局の「県外出張に関する旅行命令簿、復命書、旅行内訳書等に関する一切の書類」、各議員の「海外視察に関する企画書、旅行伺い、旅行命令簿等、海外視察に当たって事前に作成される文書」及び「海外視察に関する復命書その他、海外視察の内容の報告に関する文書」についてもそれぞれ開示請求を行い、これに対して、被告は、右請求に係る各文書のうち、知事部局に関する各文書については、その一部を開示しないこととし、鳥取県議会に関する各文書については、原告の請求書を返戻しているが、原告は、これらについては、本訴においてその取消しを求めていない(甲一、二、三の1ないし9、四の1ないし6、五の1ないし5、六の1ないし10、七の1ないし5、八の1、2、九ないし一二)。

二  争点

1  本件文書一に記載された情報のうち本件処分一により開示されなかった「会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名」の各情報は、本件条例九条二号に規定された情報に該当するか否か。

2  本件文書一に記載された情報のうち本件処分一により開示されなかった「会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名」の各情報は、本件条例九条七号に規定された情報に該当するか否か。

3  本件文書一に記載された情報のうち本件処分一により開示されなかった「飲食店等の取引金融機関名、口座番号及び印影」の各情報は、本件条例九条三号に規定された情報に該当するか否か。

4  本件文書二は、本件条例二条二項に規定する「公文書」に該当するか否か。

第三  各争点についての当事者の主張

一  争点1ないし3について

1  原告の主張

一般的に、情報公開条例が、行政機関の保有する情報について、過去において、行政機関側の種々の名目のもとに、ややもすれば、恣意的、濫用的に秘密扱いとされてきたことから、それらの弊害を除去する点も考慮に入れて制定されてきたものであることからすると、情報公開条例における非開示事由該当性は行政機関側の利便を基準とするその主観的判断に基づいて決せられるべきではない。また、本件条例が、情報の公開を原則とし、非公開を例外とし、その三条において県民の権利が十分保障されるような解釈運用をするように規定していることからしても、本件条例の非開示事由は厳格に解釈されるべきものである。

(一) 本件条例九条二号について

本件条例九条二号は、憲法一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、開示義務は免除されない。

公費による知事や県職員との会議等は公的会合であり、たとえ会議等の出席者が私人であっても、出席者等の情報は私生活上の事実に関する情報とはいえないから、これを公開したからといって個人のプライバシー権が侵害されたとはいえない。

とりわけ、会議等の出席者が国等の行政庁の公務員ないし公務員に準ずる者である場合、すなわち公務員間の会議等の場合、私生活上の事実とは一切無関係であり、純粋に公務としての会合であるから、個人のプライバシー権の侵害を問題とする余地はない。

(二) 本件条例九条七号について

知事や県職員等と懇談して飲食をともにすること、とりわけ、一定の具体的問題意識を持たないで漠然と行政事務をより円滑に執行する目的で飲食を伴う懇談それ自体をすることを目的とする会合が開催された場合、これに参加することは、社会通念上名誉でこそあれ、何ら不名誉若しくは嫌悪すべき事柄ではないから、会議等の出席者が、会合の事実を公表することに反対するとは考えられず、関係当事者の信頼関係が損なわれることはない。

(三) 本件条例九条三号について

本号は、公文書公開請求権が人権上及び民主主義原理上極めて重要な権利であることと開示情報関連業者の財産権上の権利・利益がみだりに損なわれることがないように調整し、利益衡量するために設けられたものである。

また、本号が、「当該法人に不利益が生じる」という表現ではなく、「競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害する」という文言を採用したことを考慮すると、開示義務が免除される情報は、「秘密として管理せらるる生産方法、販売方法その他の事業活動に有用なる技術上又は営業上の情報にして公然知られざるもの」に該当する情報であって、しかも、それらが害される場合、すなわち、それらに実質的な被害が客観的に生じる場合に限られるのであり、被害のおそれが杞憂の程度のものであったり、利益衡量上保護に値しない内容あるいは程度のものであれば開示義務は免除されない。

取引金融機関名、口座番号及び印影についても、当該飲食店等が一般に発行する請求書に記載されており、一般的に明らかにされているものであるが、これらが、営業上の情報であるとしても、秘密に管理されることもなければ、公然知られないものでもないし、これらを公開することによっても、当該飲食店等を経営する法人ないし個人の競争上の地位が害されたり、社会的評価の低下その他の正当な利益を害されることはない。

2  被告の主張

いわゆる「知る権利」は、憲法二一条等の派生原理として導かれるものであるが、積極的に公権力に対して情報の公開を求め得る権利ではなく、立法がなければ具体的な請求権が発生しないという意味で抽象的な権利にとどまるものであり、住民に公的な情報に対する開示請求権を付与するか否か、いかなる限度で、どのような要件のもとに付与するのかはいずれも立法政策の問題で、具体的な情報公開請求権の内容や範囲は立法された規定の文理解釈によって導かれるべきである。そして、本件条例も右のような情報公開請求権を具体化する条例であるから、公文書性、実施機関性、非開示事由については、その立法趣旨に沿って解釈されるべきである。また、本件条例は、公開の利益と公開により侵害される危険性のある利益との調整をして規定を設けているのであり、原則公開だからといって、条例の規定を越えて開示することができないのは、「法律・条例による行政」の責任を負う行政機関としては当然である。

(一) 本件条例九条二号について

本号は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人が識別されるような情報が記載されている文書については、非開示とする旨定めたものであり、プライバシーの概念やこれにより保護すべき範囲については定まった見解が確立されていないので、広く個人に関する情報を非開示とするものである。そして、個人の反対概念は法人その他の団体であり、個人の中には公務員も含まれる。

鳥取県職員について非開示とならないのは、公文書にかかる事務事業の主体者としての立場から、本件条例九条二号ただし書のロに規定された「実施機関が公表することを目的として作成した情報」に該当するからであり、会議等の出席者は、それが民間人であっても鳥取県職員以外の公務員であっても右ただし書のロに該当しないからである。

原告の解釈は条例の文言を無視する解釈である。

(二) 本件条例九条七号について

本号は、開示することにより、県又は国等が行う事務の公正又は円滑な執行の確保に支障が生じるおそれのある情報が記載されている文書については、非開示とする旨定めたものであり、会議等の出席者の中には、懇談の相手方として会議等に出席したことを公表されることを好む者もいればそうでない者もおり、また、これらの情報を従来公表してこなかったことにかんがみれば、実施機関が遡って一律に公表することになれば、本件条例制定の趣旨に反し、当該出席者の予見可能性を裏切り、当該出席者との信頼関係を損なう危険性が高いのである。

(三) 本件条例九条三号について

口座番号等の情報は、飲食店等の経理等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報である。すなわち、事業者は、請求書を顧客に対し交付するが、そこに記載してある情報は、一定の範囲の者には知られ得る性質の情報ではあるが、事業者が自らの営業活動の中で事業者のために使用するものであり、その開示範囲は、当該事業者が自ら選択できるものであって、事業者が自ら開示した者以外に対しては公開せずに、内部情報として管理するのが通常の情報である。したがって、これを公開することは、当該飲食店等の事業運営上の正当な利益を害するものであるから、非開示とすべきである。

確かにこれらの情報は、県を含めた顧客に対して明らかにされているものであるが、取引関係にない一般県民にまでこれらを広く開示することを当該事業者が予定していたとは到底考えられず、また、それが公金の支払を請求するものか否かによって取扱いを異にしているとも考えられず、また取扱いを異にしている慣行もないから、これらの情報を一律に開示することは当該事業者に不利益を被らせるものである。

二  争点4について

1  原告の主張

本訴において原告がその開示を求めている本件文書二は、鳥取県議会の出張、会議等に関する資料であるところ、議会の議員及び議会事務局の職員の出張費その他必要な費用は、県の予算から支弁され(地方自治法二〇三条三項、二〇四条一項)、県の予算については、「予算を定めること」の決議は議会の権限ではあるものの(同法九六条一項二号)、予算の調製権及び執行権は被告に専属するものであって、議会及び他の執行機関はこれらの権限を一切有せず(同法一四九条二号、一八〇条の六第一号)、議会の議員及び議会事務局の職員の出張費その他議会の予算についての調製権及び執行権も被告に専属することになる。そして、本件文書二は、知事部局の職に併任され、実施機関である被告を補助執行する議会の事務局長その他の職員が職務上作成し、管理するものであるから、実施機関たる被告が職務上作成し、管理するものである。つまり、議会事務局の職員が、予算執行に関する文書を作成し保管しているとしても、知事の吏員として知事のために作成及び保管していると解さざるを得ない。

本件条例にいう「作成」「管理」とは、単に事実上という意味ではなく法的な意味での作成及び管理と解すべきであって、予算執行関係の書類が議会事務局に事実上存在するとしても、法的には知事が管理する文書と評価されるのである。

もちろん、予算執行関係文書以外の文書については、例えば議会議事録などは、議会が実施機関でない以上、その公開を求めることはできないのであって、本件条例二条の規定には意味があるのである。

2  被告の主張

原告が開示を求めている本件文書二は、議会事務局が作成し管理しているものであるから、本件条例上の「公文書」に該当しない。

すなわち、本件条例二条二項は、「この条例において『公文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し又は取得した文書であって、決裁、供覧等の手続が終了し、実施機関が管理しているものをいう。」とし、同条一項において、実施機関を限定して定めているところ、同条の各要件について検討すると次のとおりとなる。

(一) 議会は「実施機関」でないこと

憲法九三条一項で「地方公共団体に議事機関としての議会を設置する。」としている趣旨は、権力分立の考え方による。そして、地方自治法が、「第六章議会」と「第七章 執行機関」とを分け、八九条で「普通地方公共団体に議会を置く。」と定めた趣旨は、普通地方公共団体の住民が直接選挙する議員を構成員とする合議機関を、執行機関(地方公共団体の長・単独機関)とは別に置き、しかも、これと独立対等の関係にある機関を置くことが、直接選挙で選任される普通地方公共団体の長の権力集中を制限するものと期待されているのである。そして、議員と長との兼職が禁止され(同法一四一条二項)、議会事務局の職員は議長に任免権がある(同法第一三八条五項)とされ、相互独立をはかると共に、長に対する議会の不信任決議とそれに対抗する措置としての長の議会解散権とを定め(同法一七八条)、両者の拮抗をはかっている。議会のこのような憲法上、地方自治法上の位置付けを踏まえて、理解しなければならない。

本件条例二条一項の「実施機関」とは、請求権者の請求する情報を公開する義務を負い、公開・非公開の決定を行い、その旨を請求者に対して表示する主体をいう。このため、その主体は、担任する事務を自らの判断と責任において独立して処理し、これを対外的に表示できる権限を有することが必要であって、地方公共団体においては、地方自治制度上の執行機関と議決機関がこれに該当する(乙二P5)。本件条例二条一項で開示の主体を知事のほか、公営企業管理者、各種委員会等をそれぞれ実施機関として明記していることは、これらの機関が情報の開示・非開示についての独立の判断権者となることを予定している。

本件条例においては、鳥取県議会は、実施機関から除外されている。その趣旨は、議決機関である議会の自主性・自律性を尊重する必要があるからである。鳥取県情報公開懇話会提言(乙二P5)では、議会については、「その自主的判断にゆだねることとするが、実施機関となることを期待する。」と提言された。そして、議会でも議論された(乙三の1及び2)が、鳥取県議会は、自らを実施機関から除いて条例を制定したのである。このような規定のもとで、長が独自の判断で議会の文書を開示するのは、前記憲法・地方自治法の趣旨に反する。

原告が開示を求めている文書は、県議会の議員等の海外視察、県外出張、会議等に関する費用面の資料であるが、海外視察、県外出張、会議等を実施するか否か、いつ、どこに(どこで)、どのように実施するかは、県議会が独自に決定すべきものである。知事の予算調製権・執行権を理由に、県議会事務局の作成する費用関係の文書の「公文書」性を主張するのは、議会を実施機関から除外した本件条例制定の趣旨に反するものである。したがって、県議会事務局の職員がその職務上作成し、管理している文書等は、本件条例の規制の範囲外にある。

(二) 被告が「作成または取得」したものでないこと

原告は、予算の調製権と執行権は知事に専属することから、知事は議会事務局に予算の執行権を委任できないと断ずる。

確かに、予算の調製権及び執行権については、予算の執行権も普通地方公共団体の長に所属し、議会及び委員会又は委員はこれを有しない(地方自治法一八〇条の六第一項)。したがって、これらの機関がその事務に関し、支出負担行為、支払命令その他予算執行を必要とするときは、原則として、普通地方公共団体の長に対して、これらの手続をとるべきことを求める必要がある。もっとも、これについては、同法一八〇条の二の規定により、委員会及び委員に係る予算の執行権を委員会、委員会の委員長、委員又は委員会若しくは委員の補助職員等に委任して、これら他の機関限りで予算の執行をさせ(この場合においては、普通地方公共団体の長は予算執行に関する総合調整権を有する(同法二一一条)。)、あるいはこれらの機関の補助職員等に普通地方公共団体の長の予算執行事務を補助執行させる道が開かれている(長野士郎著「逐条地方自治法」四二六頁参照)。

議会についてはこのような規定がない。しかし、一般に、議会についてはこのような規定がないので、例えば、議会事務局の事務局長、書記長又は書記を事務吏員に併任し、その事務吏員たるの資格において、これに予算の執行権を委任し(法一五三条一項)、若しくはその補助執行をさせるか(長野士郎著「逐条地方自治法」四二六頁参照)、あるいは、議会の事務局の職と長以外の執行機関の補助職との間の兼職を許すか否かについては、各地方公共団体の自主的判断にゆだねられていると解した上で、これらの場合においても当該職員の職務執行に著しい支障がないと認められる場合等には同法一八〇条の三に規定されている手続に準じて兼職あるいは事務従事させる(青林書院・注解法律学全集6地方自治法Ⅰ四九三頁参照)ことは差し支えないと解されており、いずれの形式をとるとしても、前述の憲法・地方自治法の議会と長の相互の独立対等の関係にかんがみれば、長は、議会との関係で、予算執行についての総合調整権(同法二二一条類推)を有するのみというべきである。

そして、「議会の予算執行に関する事務について知事の総合調整権が及ぶこと」から、直ちに作成者は知事部局であるということにはならないし、後述するように「知事が総合調整権を有すること」と「知事がこれらの事務につき作成される文書について本件条例にいう実施機関としての立場に立つこと」とは別個の問題である。

(三) 被告が「管理」しているのではないこと

本件条例二条二項にいう「実施機関が管理しているもの」とは、実施機関がそれぞれ定めている文書管理規則等の規定するところにより、現に公的に管理しているものをいう(乙一P4)。議会事務局は、鳥取県事務局処務規程(乙八の2)に基づいて本件文書を保管・管理している。

原告は、被告の予算の調製権及び執行権を根拠として法的には被告が管理していると主張するが、前述のとおり被告には議会との関係で予算の総合調整権しか有せず、そのような観念的な権限をもって本件条例の「管理」に当たるとはいえない。

開示の対象となる公文書の要件として、実施機関の職員が職務上作成、取得していることに加え、実施機関において管理している文書であることを要求しているのは、開示するか否かの判断を当該文書の作成取得に関与し、かつ、その文書を現実に保管、保存する機関に行わせることによって、対象文書の記載内容が本件条例の非公開理由に該当するか否かの判断及び不服申立て等への対応を遅滞なくかつ的確に行わせるためと解される。よって、本件条例二条二項にいう、文書の作成や管理の意義を、具体的な事業担当部署における文書の作成・取得過程及び現実の保管・保存状況を離れて、観念的な作成権限あるいは指揮監督権限の帰属という観点から理解するのは正当ではない。特に、本件条例九条七号は、当該情報を開示することにより県の行う事務事業に一定の支障が生じることを非開示事由としているが、これらの非開示事由に該当するか否かの判断は、当該事案に係る文書の作成、取得過程に関わり、また、それを現に管理していて、その文書の内容を把握している機関においてこそ的確になし得ることは明らかである。

また本件条例二条二項は、公文書に該当するための要件として、他に「決裁、供覧等の手続が終了していること」という要件を設けているが、これも実際に文書を作成、取得する機関が、その内部においてその文書を決裁、供覧し、それが終了した後、その文書を保管、保存するという一連の手続の流れを想定したものと理解するのが自然であり、これも、同条項にいう文書の作成や管理の意義を前記のように現実の手続に即したものと解することの根拠となるものである。

第四  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

第五  争点に対する判断

一  争点1について

1  本件条例九条二号の内容について

(一) 本件条例は、三条一項において、県民の公文書の開示を求める権利が十分保障されるように、本件条例を解釈、運用すべき旨定めて、公文書の原則的開示という基本方針を明らかにし、他方で、同条二項において、個人の秘密その他通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にされることがないように最大限の配慮をしなければならない旨定めて右原則的開示に例外的制約が存在することを明らかにするとともに、九条各号において、その例外的場合を規定した。

そして右例外的場合の一つである九条二号においては、個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報のうち、同号ただし書のイ、ロ、ハに該当しない情報が記載されている公文書については、開示しないことができるものと規定している。

したがって、実施機関としては、開示請求を受けた公文書に記載された情報が、①個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であること、②特定個人が識別され、又は識別され得る情報であること、③九条二号ただし書のイ、ロ、ハに該当しない情報であること、という三つの要件をいずれも具備する場合に限り、九条二号を理由として公文書を開示しないことができるにすぎないのであって、右要件を一つでも具備しない場合には公文書を開示しなければならないことになる。

(二) そして、右①の要件について検討するに、情報公開事務の手引(改訂版)(乙一の1)に記載されている「鳥取県公文書公開条例の解釈及び運用基準」によれば、三条二項の趣旨及び解釈について、「原則公開の立場に立つ公文書開示制度にあっても、プライバシーの保護については最大限の配慮をしなければならない。したがって個人の秘密その他の通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にならないよう解釈、運用するものとする。なお、個人の秘密その他の通常他人に知られたくない個人に関する情報の具体的判断は九条二号の規定に基づき行うものであるが、その解釈及び運用に当たっては、本条の趣旨に沿って慎重に行うものとする。」との説明がなされ、九条二号の趣旨について、「本号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人が識別されるような情報が記載されている公文書については、非開示とすることを定めたものである。」との説明がなされ、九条二号の個人に関する情報について、「思想、心身の状況、学歴、職歴、成績、親族関係、財産状況、所得その他一切の情報をいう。」との説明がなされていることなどの事実に加え、右三条二項の説明において示されている右情報、並びに、九条二号の説明において具体例として記載されている右情報は、いずれも典型的な個人に関する私的な情報であるといえることなどからすれば、九条二号にいう「個人に関する情報」とは「個人に関する私的な情報」と解することができ、また、本件条例が、九条二号のような規定の仕方を採用したのは、個人のプライバシーを最大限に保護することを意図したからであって、個人に関する私的な情報と関わりのない情報まで「個人に関する情報」として保護する意図で右のような規定の仕方を採用したものではないと解することができる。

2  本件文書一に記載されている情報について

(一) 本件文書一は、食糧費支出に関する資料であるが、証拠(甲一、二、三の1ないし9、四の1ないし6、五の1ないし5、六の1ないし10、七の1ないし5、八の1、2、九、一〇)によれば、被告が公文書部分開示決定通知書において公文書の件名としているのは、支出負担行為書及び支出仕訳書の二種類である。

そして、証拠(甲一六、二二、乙九の2)によれば、これらの文書には、支出の内容(支出の目的)、債権者の住所、氏名、金融機関名、口座番号を記載する欄は存在するものの、それ以上に会議等の出席者の所属団体名、職名、氏名を記載する欄は存在しないため、支出負担行為書及び支出仕訳書自体には、会議等の出席者の所属団体名、職名、氏名は記載されていないものと推認できる。

ところが、証拠(甲一三、一四の1ないし3、一五ないし一七、一八の1、2、一九、二〇、二一の1、2、二二、二三)によれば、右支出負担行為書及び支出支訳書そのものではない文書(例えば、会議等の案内書、会議等の式次第、会議等の出席者名簿、会議等の会則、支出調書、支出事前伺書、会議等の会場となった飲食店等の県に対する請求書など)が部分開示の対象になっているが、これらは、右支出負担行為書及び支出仕訳書に添付された資料としてこれらと一体となるもの、あるいは、右支出負担行為書及び支出仕訳書とは別個の食糧費支出に関する文書の一つであるものと推認できるが、いずれにしても、食糧費支出に関する文書であって、本件文書一に含まれる文書であるといえる。

そして、証拠(甲一三、一四の1ないし3、一五ないし一七、一八の1、2、一九、二〇、二一の1、2、二二、二三)及び弁論の全趣旨によれば、これらの文書のなかには、会議等の名称や日時場所のほか会議等の出席者の所属団体名、職名、氏名のいずれかが現実に記載されているものもあると推認できる。

(二) ところで、本件文書一に記録されている右情報は、会議等に関するものであるが、このような会議等の形式による事務は、単なる儀礼的なものではなく、県の公費を用いて公務として行われているものであって、右会議等に相手方として出席することは県の公務そのものに関与することになるという側面を有していることからすると、私人間で行われる私的な会合への参加とはその性格を全く異にしているといえること、当該出席者もこのことを当然認識していたはずであり、出席したことを公表されたくないということは通常あり得ないことなどの事情からすれば、その会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名の各情報は、個人に関する私的な情報とはいえないというべきである。

そして、右各情報が開示されることによって、プライバシーが侵害されるような例外的事情が存在する場合には、本件条例が、前記のとおり、三条において、公文書の原則的開示をその基本的方針にしていることからすると、右事情について、実施機関の側でその立証責任を負担するものと解すべきである。

しかるに、本件において、被告は、右の点について主張、立証するところがなく、また本件全証拠によっても、プライバシーが侵害されるような例外的事情の存在をうかがわせるような事情は認められない。

なお、会議等の相手方である出席者が、公務員であって、その職務に関して出席しているような場合には、その会議等に関する情報は相手方である公務員においても公務上の情報であるから、その公務員の所属団体名、職名及び氏名の各情報は、個人の私的な情報とはいえないというべきである。

3  したがって、本件文書一に記載された会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名の各情報は、個人に関する私的な情報でない以上、本件条例九条二号に規定する「個人に関する情報」ではないから、これによって個人が識別されるか否かにかかわらず、被告は、本件文書一について右情報が記載されている部分についても開示しなければならないことになる。

よって、本件文書一に記載されている右情報が本件条例九条二号に規定されている情報に該当することを理由として、右情報が記載されている部分について被告が開示しなかったことは違法である。

二  争点2について

1  本件条例九条七号の内容について

前記解釈及び運用基準によれば、九条七号の趣旨については、「開示することにより、県又は国等が行う事務事業の公正又は円滑な執行の確保に支障が生ずるおそれのある情報が記載されている公文書については、非開示とする。」との説明がなされており、「渉外に関する情報」とは、「県の行政運営等の推進のため外国、国、地方公共団体、民間団体等と行う儀式、式典、交際、交流等に関する情報」であり、「交渉に関する情報」とは、「相手方との話合いにより取決めを行う補償、賠償に係る交渉、土地等の売買に係る交渉、労務上の交渉等の方針、内容等に関する情報」であるとの説明がなされ、「当該事務事業の実施の目的が損なわれるもの」とは、「事務事業の性質上、事務事業を実施しても予想どおりの成果が得られず、実施する意味がなくなるおそれのある情報」であり、「特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるもの」とは、「事務事業の性質上、開示することにより、情報を得たものと得ていないものとの間に不公平が生じ、特定のものに対して不当な利益又は不利益をもたらすおそれがある情報」であり、「関係当事者間の信頼関係が損なわれるもの」とは、「公にしないことを条件に任意に第三者から提供された情報等のように、開示することにより、県と第三者との間における信頼関係が損なわれ、それ以降における情報収集や相手方の理解協力を得ることが困難になり、あるいは約束違反の責任が追求され損害賠償の原因等となるおそれのある情報」であり、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」とは、「定期監査、用地買収計画、設計単価表、試験問題等のように反復、継続的な事務事業であって、開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正又は円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがある情報」であるとの説明がなされている。

したがって、本条項は、県の機関が関係者との間で行う渉外、交渉等の事務に関する情報については、開示することにより、県又は国等が行う事務事業の公正又は円滑な執行の確保に支障が生ずるおそれのある場合には、これを開示しないことができることを定めたものであるということができる。

そして、本件条例が、一条において、公文書の開示を求める権利を県民に保障するとともに、これにより、県政に対する県民の理解と協力を深め、県民と県との信頼関係の確立に寄与し、もって県民参加により開かれた公正な県政の推進に資することを目的とする旨規定し、県民の公文書の開示を求める権利を保障することにより、県民の県政への参加が一層推進され、より開かれた公正な県政が実現されることを究極の目的としていることからすれば、県の機関が関係者との間で行う渉外、交渉等の事務に関する情報を開示することにより、県又は国等が行う事務事業の公正又は円滑な執行の確保に支障が生ずるおそれがあるというためには、個別の事情に照らして具体的にそのおそれが存在することが必要であり、かつその具体的なおそれの存在を基礎付ける事情については、実施機関の側でその立証責任を負担するものと解すべきである。

2  本件文書一に記載された情報について

本件文書一の中には、前記一2のとおり、会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名が記載されているものと会議等の日時場所等という会議等に関する外形的事実しか記載されていないものとがあるところ、後者の文書についても、一般人が通常入手し得る新聞等の他の関連情報との照合により、会議等の出席者や会議等の具体的な目的、内容が分かる場合もあることが推認できる。

ところで、このような会議等の形式による事務は、本条項に規定された渉外又は交渉の事務に該当するものと考えられるところ、このような会議等の中には、①事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものと、②右①以外の事務を目的として行われたものとが存在すると考えられる。

そして、右①の会議等については、これに関する文書を開示したことによってその記録内容等から会議等の出席者等が明らかになると、出席者において、不快、不信の念を抱き、また、会議等の内容等につき様々な憶測等がされることを危惧することも考えられ、その結果、以後会議等への参加を拒否したり、率直な意見表明を控えたりすることなどが容易に予想されるから、このような文書を開示することにより当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることは否定できない。

しかし、右②の会議等については、これに関する文書を開示したとしても、右①におけるような不都合な事態が生ずるとは通常想定し難いところであって、このような文書を開示することにより当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということはできない。

そして、このように、会議等に関する情報の性質が、その会議等の目的や内容等と密接に関連していることからすると、本件文書一に記載された会議等に関する情報を開示することにより当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというためには、前記1に説示のとおり当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれが具体的に存在することについての主張立証責任を負担している被告の側で、当該会議等が、事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書一に記録された情報について、その記録内容自体から又は他の関連情報と照合することにより、会議等の出席者等が了知される可能性があることを具体的に主張、立証しなければならないことになるから、被告において、その点について判断を可能とする程度に具体的な事情を主張、立証しない限り、本件文書一の開示によって右のようなおそれがあると認めることはできないと解される。

ところが、本件において、被告は、右の点について具体的に主張するところがない。

3  したがって、本件においては、右の点について具体的な被告の主張、立証がなされておらず、また本件全証拠によっても、そのような具体的なおそれがあることをうかがわせるような事情は認められないのであるから、本件文書一に記載された会議等の出席者の所属団体名、職名及び氏名の各情報が、本件条例九条七号に規定する情報に該当するものと認めることはできない。

よって、本件文書一に記載されている右情報が本件条例九条七号に規定されている情報に該当することを理由として、右情報が記載されている部分について被告が開示しなかったことは違法である。

三  争点3について

1  九条三号の内容について

前記解釈及び運用基準によれば、本号の趣旨については、「法人等又は事業を営む個人の事業活動の自由を原則として保障しようとする趣旨」から、「開示することにより、法人等又は事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報が記載されている公文書については、非開示とすることを定めたものである。」との説明がなされ、「競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、「(1)法人等又は事業を営む個人の保有する生産技術上又は販売上の情報であって、開示することにより、当該法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの、(2)経営方針、経理、人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報であって、開示することにより、法人等又は事業を営む個人の事業運営が損なわれると認められるもの、(3)その他開示することにより、法人等又は事業を営む個人の名誉、社会的評価、社会的活動の自由等が損なわれると認められる情報」との説明がなされている。

したがって、本条項は、法人等又は事業を営む個人の事業活動を保障するという観点から、これらの競争上又は事業運営上の正当な利益を害するような情報が記載されている公文書についてはこれを開示しないことができることとしたものであると解される。

2  本件文書一に記載された情報について

本件文書一に記載された飲食店等の取引金融機関名、口座番号及び印影の各情報が、販売上の情報あるいは経理等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報としての性質を有するものであることは明らかである。

しかしながら、右取引金融機関名等の各情報は、法人や事業を営む個人が自らの事業活動の中において継続的又は反復的に使用することが予定されているものであって、その事業規模や事業形態によっては、相当広範囲な取引関係者が知り得る性質のものであるということができる。また、現実に取引関係者以外の第三者に右各情報が知れわたったとしても、特に不都合が生じるような事態を想定することは困難である。

したがって、このような情報が、その性質自体からも、現実の問題としても、開示することにより法人や事業を営む個人の正当な利益を害するものであると認めることはできないというべきであるから、本件文書一に記載された「飲食店等の取引金融機関名、口座番号及び印影」の各情報は、本件条例九条三号に規定する情報に該当しない。

3  よって、本件文書一に記載されている右情報が本件条例九条三号に規定されている情報に該当することを理由として、右情報が記載されている部分について被告が開示しなかったことは違法である。

四  争点4について

1  開示請求書の返戻行為について

前記争いのない事実(第二の一2(三)(四))のとおり、原告の本件文書二に関する開示請求に対して、被告は公文書の不存在を理由として請求書を返戻しているところ、原告はこれを開示しない処分とし、被告もその処分性を明確には争わないが、右返戻行為によって開示請求者はその請求に係る文書の開示を受ける法律上の地位を一方的に否定される点で右返戻行為は法律上の効果を伴うものであるといえること、また、本件条例において、開示請求を受けた実施機関が開示請求書を受理しないことについての規定を欠くことからすると、被告の右返戻行為は、本件条例七条に基づいてなされた公文書の不存在を理由とする非開示処分(以下「本件処分二」という。)であるというべきである。

2  本件条例について

前記解釈運用基準によれば、本件条例二条二項の解釈に関して、「職務上作成し、又は取得した」とは、「実施機関の職員が自己の職務の範囲内において事実上作成し、又は取得した場合をいい、文書等に関して自ら法律上の作成権限又は取得権限を有するか否かを問わない。」とし、「実施機関が管理しているもの」とは、「実施機関がそれぞれ定めている文書管理規則等の規定するところにより、現に公的に管理しているものをいう。」との説明がなされている。

3  本件文書二について

証拠(乙七の1、2、八の1、2、九の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告の開示請求に係る旅費・食糧費の支出に関係する文書(本件文書二)のうち、主なものとしては、支出負担行為兼支出仕訳書、支出負担行為兼支出内訳書及び旅費概算払請求書が存在している。

(二) 議会事務局の職員は、鳥取県予算規則、鳥取県会計規則、鳥取県議会事務局組織規程及び鳥取県議会事務局処務規程により、支出関係文書としての支出負担行為兼支出仕訳書、支出負担行為兼支出内訳書、旅費概算払請求書を作成する。そして、右議会事務局処務規程により右文書の決裁を事務局長が行い、その後、支出行為を確認して現金を出納するために、右文書は出納局に回され、支出執行された後は、議会事務局に返還され、その後の保管については、右議会事務局組織規程及び議会事務局処務規程により、議会事務局総務課において保管されている。

(三) そして、本件文書二のうち支出負担行為兼支出仕訳書、支出負担行為兼支出内訳書及び旅費概算払請求書以外の文書についても右(二)と同様のあるいはこれに準じた処理がなされている。

4  以上を前提にして検討する。

(一)  本件条例二条二項にいう「作成又は取得」、「管理」については、前記のような本件条例の趣旨からすると、非開示情報の保護を伴う公文書の開示手続の迅速かつ円滑な執行の実現もその目的の一つにあるものと考えられ、右目的を実現するには、実施機関が、当該文書を法的な権限に基づいて、現実に作成又は取得し、管理していることが必要であると解される。

(二) 本件文書二については、確かに、右3のとおり、事実上は、議会事務局総務課で作成して、管理しており、また、諸規程においても、議会事務局総務課で管理する旨定めているようにも読める規定がある。

しかしながら、知事が地方公共団体を統轄する地位にあって(地方自治法一四七条)、予算に関しては、予算調製権及び予算執行権が知事に専属し(同法一四九条二号)、予算に関する調査権が知事に与えられていること(同法二二一条)、決算に関しては、知事によって監督される出納長において決算の調製権が与えられていること(同法一四九条五号、一七〇条七号)、知事は、住民監査請求あるいは住民訴訟において不当若しくは違法な予算の執行に関して法的な責任を負う場合があり得ること(同法二四二条、二四二条の二)などにかんがみると、予算執行に関して議会を含む他機関に対して総合的な調整をすることができる立場にあるといえる知事としては、予算の調製及び執行に関する限りの範囲と限度において、その執行手続が終了した後においても、予算の調製及び執行に関する証拠書類となる文書につき、必要に応じて当該文書を参照することができるようになっている必要性があるといえること、また、予算執行手続終了後に知事が予算執行の実態を把握すること自体が、その予算執行の原因となった行為について権限を行使する他の機関に対する直接的な干渉になるわけでもないことなどの事情を考慮すると、少なくとも予算執行に関する文書については、その作成又は取得並びに管理の権限が法的には知事に属しているというべきである。なるほど、鳥取県の文書管理に関する右諸規程においては、完結後の文書についての管理に関する被告の法的な右権限を明示的に記載していないが、このことから直ちに、右のような地方自治法上の被告の権限を否定する趣旨と解することは相当ではない。

そして、議会事務局の職員が本件文書二を事実上作成又は取得し、管理しているが、右行為は、いずれも被告の予算執行事務の補助執行という形で、知事部局の予算執行に関する職員としての身分に基づいてなされたものであると解するのが相当である。

したがって、本件文書二は、いずれも実施機関である被告が作成又は取得し、かつ管理する文書であって、本件条例二条二項の公文書に当たるというべきである。

5  よって、本件文書二が本件条例二条二項において開示の対象として規定されている公文書に該当しないとして公文書の不存在を理由にこれを開示しなかった本件処分二は違法である。

第六  結語

以上のとおりであるから、原告の本件請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・内藤紘二、裁判官・一谷好文、裁判官・三島琢)

別紙文書目録

一  鳥取県総務部秘書課についての平成八年度の食糧費支出に関する一切の資料

二  鳥取県東京事務所についての平成八年度の食糧費支出に関する一切の資料

三  鳥取県総務部総務課、管財課、職員課、財政課、税務課、市町村振興課、同和対策課、国際課、秘書課についての平成六・七年度(秘書課、財政課については平成七年度のみ)の食糧費支出に関する一切の資料

四  鳥取県企画部企画課、地域振興課、文化振興課、交通政策課、女性青少年課、統計課についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

五  鳥取県福祉保健部福祉保健課、長寿社会課、医務薬事課、健康対策課、保険課についての平成五年度ないし八年度の食糧費支出に関する一切の資料

六  鳥取県農林水産部農政課、経営指導課、農産園芸課、畜産課、耕地課、農村整備課、林務課、森林保全課、水産課、漁港課についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

七  鳥取地方農林振興局、八頭地方農林振興局、倉吉地方農林振興局、米子地方農林振興局、日野地方農林振興局についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

八  鳥取県出納局会計課、用度課についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

九  鳥取県企業局総務課についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

一〇 鳥取県教育委員会事務局総務課、同和教育課についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

一一 鳥取県人事委員会総務課、職員課についての平成六・七年度の食糧費支出に関する一切の資料

一二 平成六年度の鳥取県商工労働部商工振興課博覧会準備室及び七年度の博覧会推進局推進課の食糧費支出に関する一切の資料

一三 平成七・八年度における各議員の海外視察に関する旅費請求書、旅行者の領収書等、旅費の支出に関係する文書

一四 平成六年における各議員の海外視察に関する旅費請求書、旅行者の領収書等、旅費の支出に関係する文書

一五 平成六年度の鳥取県議会議員、議会事務局についての旅費・食糧費の支出に関する一切の資料

別紙非開示情報目録

別紙文書目録記載一ないし一二の各文書のうち非開示とされた情報

1 会議等の出席者(鳥取県職員を除く)の所属団体名、職名及び氏名

2 飲食店等の取引金融機関名、口座番号及び印影

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例